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聴力をなくす

2008.10.12 (Sunday)

別に隠している訳でもないし、誰彼構わず人に言う訳でもないが、右耳がほとんどきこえない。
中学の時の事故で鼓膜が破れて、そのまま再生しなかった。
日常生活で支障はないが、何もそんな耳を持って自分でミックスまでする音楽家になることもなかろうに、とは言わないでほしい。
僕の曲で高音が変に左に寄っていたり、誰かと横に並ぶ時に右に行きたがるのは、それが原因だ。
そんなこともあって、「-MONOPHONIC-ENSEMBLE-」で「One Ear Enough」という曲をつくったりもした。

それはいいんだが、ここ数日左耳もきこえなくなって本当に参った。
風邪を引く時は弱いところから引くので、僕は必ず耳のきこえが悪くなるところから始まる。でもそれは大概1日で、喉や鼻に症状がすぐ移行する。
今回のウイルスが軽かったのか、症状が最初の耳の段階で中途半端に止まって進まない!

無音ならまだいいが、「イレイザー・ヘッド」の嵐のような耳鳴りが止まらず、そのうち平衡感覚がやられて目眩がするようになった。酔っぱらった時みたいに、目の前がぐるぐる回ってまっすぐ歩けない。
音をきくと、位相がおかしくて気が狂いそうだ。スピーカーの前になんて、とても居られない。
打合せで人と話す時、自分がどの位の大きさと調子で話しているのかわからないので、不安になる。何度も「え?」ときき返してしまう。
これが一生続いたらもう俺は終わりだ、と恐ろしくなった。

5日程経った朝、その厄介なヴェールは取れて、片耳だけがほとんど無能な元の自分に戻っていた。

この体験の訓諭は何か?

もちろん、勉強して知識を得たり、鍛えて筋肉を付けることは怠りたくない。
しかし、基本的に僕は人間の「容量」のようなものは一定だと思っている。
つまり何かを失うと別のもので補うだろうし、何かを選んで得たら別のものを無くすはずだ。
僕が音楽をつくる源泉になっている大方のアイディアも、「あえて何かを無くして、際立たせるものをつくる」ということだったりもする。

もし両耳を失ったら、五線紙に向かって音符を並べ、記憶を辿ってそれをかたちにすることだろう。
その時鳴り出す音楽は、今つくっている音楽より劣るものだろうか、という疑問である。

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